虚空を見つめるケヴィン・スペイシーの眼差しー配役の魅力
本作の演技といえば、やはりレスター役のケヴィン・スペイシーの怪演は外せないだろう。特に印象的なのが、ケヴィンの目だ。アンジェラを一目見てうっとりとする目、窓ガラスに向かってバーベルを持ち上げる目、そして、リッキーが思わずうっとりとしてしまうほど、見入ってしまう死体の目ー。虚空を見つめる彼の目は、滑稽さや中年の悲哀、狂気など、さまざまな感情を物語っている。
ちなみに、夕食での夫婦喧嘩のシーンで、彼がアスパラガスを壁に投げつけるシーンは、完全なる彼のアドリブで、実際には床に投げつけるはずだったという。当初はこのあたりの演技には、役者の自由な演技を尊重する演劇出身のメンデスの演出術が光っているといえるだろう。
ほかにもキャロライン役としてキレキレの演技を見せたアネット・ベニングや、レスター相手に妖艶な演技を見せたミーナ・スヴァーリ、未成年ながら体当たりの演技を見せたジェーン役のソーラ・バーチなど、役者全員が見事な演技を披露。中でも、フィッツ大佐役のクリス・クーパーは、それまでの男臭い役とは異なり、どこか女性性を感じさせる演技を披露しており、新境地を開拓している。