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実像と鏡像、二つの世界ー脚本の魅力

映画『シャイニング』主役のシャック・ニコルソン【Getty Images】
映画シャイニング主役のシャックニコルソンGetty Images

あらすじからも分かるように、本作では、現実世界とジャックの妄想、そしてダニーの見ている未来視が激しく交錯し、一筋縄ではいかない展開になっている。

例えば、ホテルのゴールドルームに向かうシーンでは、酒を求めるジャックが一言「ビールを飲みたい」と呟くと、彼の前にバーテンダーのロイドが現れ、バーボンのオン・ザ・ロックを出してくれる。その後、ジャックが再び訪れると、今度は無人のはずにも関わらず、パーティ客でごった返している。

ここで注目すべきは、これらのシーンに「鏡」が登場することだろう。例えば、ゴールドルームのシーンでは、カウンターの正面が全面鏡張りになっている。また、ジャックがいわくつきの237号室に入り、バスルームで美女と抱き合うシーンでは、鏡に映った彼女の後ろ姿を通して、彼女が醜い老婆であったことに気づく。

極め付けは、ダニーが度々口にする「REDRUM(赤い羊)」だ。ダニーは、眠りについたウェンディを横目に、「REDRUM」と書く。この文字が、鏡に映った時、「MURDER(殺人)」という全く異なる意味の言葉となる。つまり、本作には、実像の世界と鏡像の世界という二つの世界が存在しているのだ。

ここでもう一つ触れておきたいのが、ホテルのロビーに飾られたラビリンスの模型だ。ジャックがこの模型を見つめるシーンでは、模型の中をさまようウェンディとジャックの姿が映し出される。つまり、ジャックは、本作の中でひとり超越的な立場におり、彼の想像が鏡の中のフィクションの世界を生み出していると考えられる(本作の舞台が「オーバールック(展望)ホテル」なのも示唆的だ)。

なお、原作者のキングが本作のインスピレーションを受けたというジョン・レノンの「インスタント・カーマ」には、「Instant Karma’s gonna get you(因果が降りかかるだろう)」という歌詞が登場する。これは、本作が、「カルマ(業、因果)」をテーマとした歌であることを示している。

この「因果」は、原作の小説では「輪廻」という形で示されている。例えば、143分の北米版では、ウェンディが部屋に食事を運んだあとの会話で、「面接に来たときから、前にここで過ごしたような気がしていた。デジャヴュの瞬間は誰にでもあるが、これはまるで違う。隅々までどこに何があるかを覚えている感じだ」と話すシーンがある。

そして、エンディングに映る舞踏会の写真。この白黒の写真には、並みいるパーティ参加者の先頭に、ジャックと瓜二つの人物が写っている。キューブリックによれば、これらは、「ジャックの生まれ変わりを暗示している」のだという。

ちなみに、本作の舞台である「オーバールック・ホテル」の「オーバールック」には、「展望」以外にも「邪悪な」という意味を持つ。ここから考えると、本作のジャックは、過去に犯した一家惨殺事件の咎で、ホテルの管理人として輪廻転生を繰り返す「邪悪な魂」なのかもしれない。

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