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グランド・ブダペスト・ホテル 演出の寸評

架空のホテル「グランド・ブダペスト・ホテル」を舞台にしたコメディ映画である。とはいえ、警察に捕まったグスタブ(レイフ・ファインズ)が脱獄をはかるシーンはサスペンス映画さながらの緊迫感があり、ベルボーイのゼロ(トニー・レヴォロリ)とアガサ(シアーシャ・ローナン)が出会うシーンは、青春恋愛映画のような甘酸っぱさが感じられる。複数のジャンルをつなぎ合わせる演出は魅惑的と言う他なく、第64回ベルリン国際映画祭では、銀熊賞(監督賞)を獲得した。

一にも二にも目を引くのは、豪華絢爛な舞台美術の数々である。監督のウェス・アンダーソンは、相棒とも言える美術監督・アダム・ストックハウゼンと共に、実在する百貨店にキュートな意匠を加えて改装。現実とも非現実ともつかない摩訶不思議な空間を作り出した。画面展開は極めてスピーディーであり、うっかりしていると筋を見失ってしまう。しかし、物語に置いてけぼりにされたとしても、サイレント映画を思わせる小気味良いカットのリズムに身を任せるだけで、十分に楽しめる。

また、窓枠の中に登場人物を収める「フレームインフレーム」を活用することで、端正な構図を形成すると同時に、背景と人物の関係をダイナミックに表現。高所から飛び降りたゼロとアガサがトラックの荷台に着地し、お菓子の箱に埋もれながら抱擁を交わすシーンは、視覚的な快楽に満ちあふれた素晴らしいクライマックスである。

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