ダークナイト 配役の寸評
本作で主役級の活躍を見せるジョーカーに扮するのは、名優・ヒース・レジャーである。撮影前のおよそ1カ月間、ホテルに缶詰になり、ジョーカーならではの歪な笑い方や発声方法を探求。その結果、底知れぬ狂気に、ほんの少しのユーモアと悲壮感がブレンドされた、唯一無二のキャラクターを見事に体現している。公開を待たずして亡くなったものの、アカデミー助演男優賞を獲得した。
主役のバットマン/ブルース・ウェインを演じたクリスチャン・ベールは、表情に乏しく、朴訥とした芝居を強いられているものの、ジョーカーを際立たせるための黒子の役割をしっかり果たしている。ゴードン警部補役のゲイリー・オールドマン、ウェイン家の執事・アルフレッドに扮するマイケル・ケインを始めとした脇を固めるベテラン俳優陣も盤石のパフォーマンスで、作品の風格を数段階も引き上げている。
また、ハービー・デントを演じるアーロン・エッカートもキャリア屈指の名演技を披露。絵に描いたような正義漢から、倫理のタガが外れた悪者に変貌する過程はリアリティがあり、裏の主人公とも言える活躍っぷりだ。
一方、女性キャストの活躍はほとんど見られない。マギー・ジレンホール演じるレイチェルは、中盤で命を落とすため出番が少なく、ステレオタイプのヒロイン像に収まっている。その点で、本作はホモソーシャルな色合いが強い作品だと言えるかもしれない。