映画史に残る悪役はいかにして生まれたか?~配役の魅力~
主役のクラリスに扮したジョディ・フォスターは、1988年公開の社会派ドラマ『告発の行方』でアカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得し、本作で2度目の栄冠に輝いた、現代ハリウッドを代表する名優である。当初は、ミシェル・ファイファーとメグ・ライアンがキャスティングの候補に上がっていたというが、本人たっての希望により、フォスターが演じることに。持ち前の抑制された演技によって作品の格調を数段上に引き上げている。
クラリスと対をなす、今一人の主人公・ハンニバル・レクターを迫力たっぷりに演じたのは、イギリスが生んだ名優、アンソニー・ホプキンス。『2001年宇宙の旅』(1968)に登場する人工知能「HAL9000」の声と、『ティファニーで朝食を』で知られる文豪、トルーマン・カポーティの話し方を参考にして役を作り上げ、映画史上に残る悪役を見事に造形してみせた。
クラリスとレクターの対話シーンは、クローズアップのカットバック(向かい合う2人の人物を交互に映す撮影技法)によって示される。ふとした視線の動き、唇の震えなど、きわめて細かい表情の変化によって、息を飲むような緊張感が生み出されている。
見ていて瞬きするのを忘れるほど、緊張感のある芝居が繰り広げられる中、要所要所でダイナミックなアクションが炸裂し、観る者を驚かせる。レクターが看守に手錠をかけて自由を奪い、警棒でなぶり殺す場面では、被害者の姿は示されず、白いシャツを返り血で赤く染め上げていくレクターの野獣のような姿だけが映される。それまでの「静の芝居」とのギャップが、シーンのインパクトを強めていることは言うまでもないだろう。
連続殺人鬼、バッファロー・ビルに扮したのは、アメリカ出身の俳優テッド・レヴィン。「女装趣味のある猟奇殺人鬼」という狂ったキャラクターを怪演し、ブレイクを果たした。ちなみに、死体を加工して装飾品を作るという、何とも気味の悪いキャラクター像は、エド・ゲインおよびテッド・バンディという、2人の実在する猟奇殺人犯がモデルとなっている。