ブラック・スワン 映像の魅力
大半のシーンは粒子の粗い16mmフィルムによって撮影されている。ダーレン・アロノフスキーの得意とする手法である、手持ちカメラで被写体の背中を追っていくカメラワークも相まって、ドキュメンタリー映画のような手触りを感じさせる。
他方で、地下鉄のシーンのみSONYのデジタルビデオカメラが使用され、無機的で冷たいトーンを表現。良いアクセントとなっている。また、16mmフィルムというアナクロな素材で撮影されてはいるものの、随所で精巧なCG技術が用いられている点にも注目。古いメディアと最新技術を結合させることで、映像に奇妙な魅力をもたらしているのだ。
ニナが黒鳥へと変身する過程を一息に、ワンカットで描写するショットはその最たるもの。母・エリカの部屋に飾られている肖像画が一瞬だけ動くカットは、ニナの精神の変調をさりげなく表現しており、見事である。