「見えない脅威」に蹂躙される世界を描いたパニックムービーー演出の魅力
世界中を恐怖の底に陥れた新型コロナウイルス。未知のウイルスの出現は、「リモートワーク」や「ソーシャルディスタンス」といった新しい生活様式を生み、人々の間にさまざまな分断を刻み込んだ。突然襲来する「見えない脅威」によって、またたく間に変わっていく世界。そんな今日的な問題をリアリティたっぷりに描出したのが、この『ハプニング』だ。
監督は、『シックス・センス』(1999年)や『サイン』(2002年)で知られるM・ナイト・シャマラン。主人公エリオット・ムーアを『ブギーナイツ』(1997年)のマーク・ウォールバーグが演じる。
蜂群崩壊症候群(飼育していたハチが突然大量に姿を消す)をもとに、謎の自殺現象に翻弄される人類の混乱を描いた本作。「不可解な脅威」を描いたという点では、アルフレッド・ヒッチコックの『鳥』(1963年)同様、傑作になる伸びしろがあるが、残念ながら世間的には失敗作とみなされている。
本作が低評価である一番の理由は、「見えない脅威」の描き方だろう。エリオットたちは原因のわからない脅威に対して、あたふたと逃げるしかない。広大な草原をあちらこちらと逃げ惑うそのさまは、ルールがころころと変わっていく子供の遊びのようで、パニック映画というよりはコメディ映画のようでもある。
とはいえ、人々が何の前触れもなく次々と自殺をしはじめる場面には工夫が凝らされており、観ていて飽きることはない。動物園の柵を乗り越え、ライオンに身を投げ出す男性、自動芝刈り機の前に寝そべり、首を切って即死する男など、一風変わった”死の光景”がこれでもかと映し出される。
そもそも映画というメディアは、人の死を見世物にすることで、観客の視線をスクリーンにつなぎとめるという側面を持つ。それは、アクション映画でもホラー映画でも、難病モノのヒューマンドラマでも変わらない。その点、観ていて気分が悪くなるほど執拗に死の光景を映し続けるシャマランの演出に、彼の皮肉を見ることも可能だろう。「そんなに人が死ぬ場面が見たければたっぷり見せてやる」というメッセージすら読み取れる。
コロナ禍を得た今改めて見ると、本作の滑稽さも真に迫ったものに見えてくるかもしれない。なぜなら、「目に見えない脅威」を前にした私たちは、とにかく踊らされるしかないからだ。そういった意味で本作は、コロナ禍を予測した作品と言えるかもしれない。