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日常のうちに潜む不条理と狂気ー脚本の魅力

ズーイー・デシャネル
女優のズーイーデシャネルGetty Images

前ページでも触れたように、本作の脚本は質の高いものではないし、B級映画さながらの何とも言えないチープ感が全編に漂っている。

まず、ウイルスや細菌が原因であるならば、なぜエリオットたちはマスクをしないのかが謎だし、ディスタンスを取らずに集団で行動をするのもよく分からない。それに、終盤でエリオットたちを匿うジョーンズ婦人も、いかにもホラー映画に出てきそうなキャラクターで、パニックムービーという本編のコンセプトから完全にぶれてしまっている。

また、怪現象の正体が最後まで分からないところも、人によってはモヤモヤと徒労感が残るだろう。

とはいえ、作中には、シャマランらしいスマートな演出も随所に散りばめられており、駄作と決めつけるのはいささか早計だ。

例えば、エリオットの友人であるジュリアンが死ぬシーンでは、車中に目張りをするジュリアンたちを映した後、今度は一瞬止まって木立に突っ込んでいく様子を車の外から映す。このように彼らの死を一つの事故として客観的に描出し、映画のコンティニュイティ(連続性)を断絶させることで、不条理感をより際立たせることに成功している。

エリオットたちが二手に分かれて草原を逃げるシーンの「拳銃リレー」も印象的だ。このシーンでは、エリオットと別のグループをまとめる軍の兵士がいきなり銃で自身の頭を撃ち抜いた後、周りの人が拳銃を拾い、次々と頭に向けて引き金を引いていく。なんとも衝撃的な展開だが、シャマランはこのシーンをなんと乾いた銃声だけで表現している。

また、本作の脚本は、パニックムービーにしては山場がなく、盛り上がりにも欠ける印象がある。しかし、あえてフラットに展開させることで、むしろ突発的な変化を際立たせることに成功している。本作のストーリーには、こういった不気味さと危うさが常に胚胎しているのだ。

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