ホーム » 投稿 » 日本映画 » レビュー » ガチの暴力シーンが凄まじい…ラストの女の不可解な行動とは? 映画『その男、凶暴につき』徹底考察。北野武演出と音楽も解説 » Page 3

❝世界のキタノ❞の誕生ー演出の魅力

北野武(ビートたけし)
北野武ビートたけしGetty images

デビュー作には、監督の全てが詰まっているー。

クリエイティブの世界では、嘘かまことか、そう評されることがある。この言葉が本当なら、本作には、北野武の作品の全てが詰まっているといえるかもしれない。

本作は、1989年公開の北野武初監督作品。主演のビートたけしのほか、白竜や平泉成、川上麻衣子らが出演している。

いまだにさまざまな逸話がささやかれる本作だが、最も有名なのが、本作の誕生にまつわる逸話だろう。

本作は当初、『仁義なき戦い』シリーズで知られる深作欣二が監督、ビートたけしが主演で製作される予定だったが、スケジュールの折り合いがつかず深作が降板(もともとのタイトルは『灼熱』)。代わりに北野が監督に登板することになった。つまり北野は「偶然」から映画監督になったのだ。

しかし、北野はとてもはじめてとは思えない監督手腕を発揮。随所に散見される”北野節”と、映画づくりの慣習に縛られない即物的で斬新な暴力描写、そして初監督作品とは到底思えない完成度の高さで、世間をあっと言わせた。

本作における北野武の演出の特徴はリアリズムの一言に尽きる。映像の項目でも詳しく触れるが、通常の劇映画では「殴ったふり」をするところ、本気の平手打ちをかます、本当に役者が階段を転げ落ちるなど、暴力描写において徹底したホンモノ志向が貫かれている。

なお、本作のキャッチコピーは、「子供に、みせるな!」。本作を制作時点で、北野の映画監督としての方向性は決まっていたと言っても過言ではないかもしれない。

1 2 3 4 5 6 7