アメリカの陪審員制度を扱った密室劇の最高傑作―演出の魅力
疑わしきは罰せず―。言わずと知れた刑事裁判の大原則だ。この言葉には、たとえ真犯人を取り逃したとしても、無辜の民を罰することだけはあってはならないという思いが隠れている。なぜなら冤罪の多発は、そのまま法治国家の崩壊を意味するからだ。
しかし、自身の色眼鏡に気づかない人物が法の裁きに加担すると、そういった公正さか失われてしまう可能性がある。本作のテーマである「陪審員裁判」は、そういった危険性を常にはらんでいると言えるだろう。作中、陪審員8番が述べる言葉のように。
「個人的な偏見を排除するのはいつも難しい。しかも偏見は真実を曇らせる」
本作は、殺人事件の陪審員が、全員一致の評決に達するまで議論する様子を描いた法廷劇。監督は『オリエント急行殺人事件』(1974年)や『狼たちの午後』(1975年)で知られる名匠シドニー・ルメットで、脚本はレジナルド・ローズ。主演の陪審員8番をヘンリー・フォンダが演じる。
本作の最大のポイントは、95分の上映時間のほとんどが1つの部屋の中で展開することだろう。しかし、ワンシチュエーションだから単調かといえば、決してそんなことはなく、役者陣の演技の上手さも相まって、最後まで飽きることなく楽しめる作品に仕上がっている。
また、本作は、ベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞を受賞しているほか、AFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)が選ぶ「アメリカ映画ベスト100」の一本にも選出されている。まさに「脚本が面白ければ映画は面白い」を体現した作品といえるだろう。
なお、脚本家の三谷幸喜は、本作に対するオマージュとして、『12人の優しい日本人』という舞台作品を発表。1991年には、中原俊監督により映画化もされている。気になる方は本作と見比べてみると面白いかもしれない。
尚、本作は上記の三谷幸喜×中原俊コンビによるオマージュ以外にも、世界各国でリメイクされている。目ぼしいところでは、『12人の怒れる男/評決の行方』(1997/アメリカ。監督:ウィリアム・フリードキン)、『12人の怒れる男』(2007/ロシア。監督:ニキータ・ミハルコフ)が挙げられる。それぞれオリジナル要素にアレンジを加えているが、現代ロシアを舞台とする後者では、被疑者の少年をチェチェン紛争の孤児にするなど、ロシアならではの社会問題を大きく取り上げている。興味のある方はぜひ見比べてみてほしい。