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アメリカの夜 映像の魅力

撮影監督を務めたのは、1943年生まれのフランス出身のカメラマン、ピエール=ウィリアム・グレン。トリュフォー作品を担当するのは、『私のように美しい娘』(1972)に続いて二作目である。ブレをともなう手持ちカメラや、遠い距離から対象に急接近するズームアップなど、ドキュメンタリータッチの撮影スタイルが全編にわたって採用されている。

『アメリカの夜』撮影風景
アメリカの夜撮影風景 Getty Images

絵画のようにバランスの整った構図で被写体を捉えるのではなく、目まぐるしい撮影現場の様子は、ラフなスタイルで運動感たっぷりに描き出される。プールで泳ぐ若い女性を撮影するシーンは、女性を単独で映したショットからはじまり、カメラがズームバックすると、クレーンに乗った撮影スタッフや、出番を待つメインキャストの姿が映り込む。一旦、撮影現場全体を一望するまで上昇したカメラは、再びゆっくり下降し、真剣な眼差しで演技を見つめる監督とスクリプターにズームアップする。大勢の労働で成り立つ映画制作現場のダイナミズムを、余すところなく伝える名撮影である。

ズームアップはフェラン監督が見る夢のシーンの導入部でも用いられる。ホテルのベッドで眠るフェランの全身を映していたカメラは、おもむろに顔に寄り、映画館のネオンを映した映像が重ね合わされる。すると一転、映像はモノクロに切り替わり、スーツを身にまとった少年がステッキを巧みに使って、壁に貼られた『市民ケーン』(1941)のスチール写真を盗み出す姿が映し出される。少年は幼い頃のフェランであり、かつてのトリュフォー本人に他ならない。

ズームアップが甘美な夢へと誘うのに対し、ズームバックは夢の終わりを示す。撮影がクランクアップを迎え、スタッフとキャストが再会を誓い合って散り散りに別れるラストシーンは、ヘリコプターを使った空撮ショットによって幕を閉じる。天からのズームバックによって映し出された誰もいない撮影セットは空虚そのものであり、愛と興奮に満ちあふれた映画づくりという夢の終わりを、強く印象づけるのだ。

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