鬼才・今敏の集大成ー演出の魅力
本作は、アニメ監督・今敏の4作目の監督作品。原作は「映像化不可能」と言われた筒井康隆の同名小説で、悪夢を見させる夢のテロリストと夢探偵・パプリカとの戦いが描かれている。
『PERFECT BLUE』(1997年)や『千年女優』(2001年)で現実と虚構が入り混じる世界観を描出してきた今。20代からのファンだという筒井のベストセラー小説を大きく脚色した本作は、今のフィルモグラフィの集大成ともいうべき作品に仕上がっており、クリストファー・ノーランも『インセプション』制作の際に参考にしたと言われる。
ちなみに本作は、ヴェネツィア国際映画祭の公式コンペティション部門に選出され、世界的にも大きな注目を集めた。世界三代映画祭のコンペティション部門に出品されたアニメ作家が宮崎駿、押井守のみという点から鑑みても、本作の偉大さがうかがい知れるだろう。
なお、今はその後、新作『夢みる機械』の制作途中の2010年に逝去。その死は世界中で報道され、米タイム誌の「2010年を代表する人」特集のFond Farewells部門(同年に亡くなった人を紹介する部門)では、『ライ麦畑でつかまえて』で知られる小説家J.D.サリンジャーらと並んで選出された。彼の早すぎる逝去は、日本のみならず世界のアニメ界の大きな損失だったのかもしれない。