即物的で虚無的な暴力描写ー映像の魅力
本作には、二つのタイプの暴力が登場する。一つは、銃を用いた一撃必殺の暴力。もう一つは、痛みが伝わる執拗な暴力だ。
前者の暴力については、例えば我妻が仁藤の事務所を訪れ、岩城の死について問い詰めるシーンが挙げられるだろう。岩城の死について煮え切らない答えを繰り返す仁藤が席を立とうとすると、いきなり我妻が銃を取り出し、仁藤に銃弾を浴びせる。
そして我妻は、唖然とする新開に目もくれず、そのままフラフラと事務所を後にする。
なお、一撃必殺の暴力描写で最もショッキングなのは、前者の清弘と我妻が映画館と前で揉み合うシーンだろう。我妻の頭突きで倒れた清弘が、我妻に銃口を向けると、我妻が咄嗟に足で清弘の腕を払い、弾道を変える。
すると、清弘の銃から発射された流れ弾が、なんと野次馬の少女の脳天を貫いてしまう。そして、彼女の友人が甲高い悲鳴をあげる中、我妻は夜の闇へと駆けていく。一瞬のシーンながら、脳裏に焼き付くような強烈なシーンだ。
一方、後者の暴力については、クラブのトイレの尋問シーンが挙げられる。このシーンでは、我妻と菊地がトイレに逃げ込んだ麻薬の売人・橋爪を捕まえ、何回も頬をビンタしながら尋問する様子を長回しで捉える。
徐々に血が滲み、紫色に腫れ上がっていく菊地の顔は、何とも痛々しい。
また、我妻が意味もなく歩くシーンが随所に散りばめられているのも本作の大きな特徴だ。北野は後年、「尺が足りなかったから歩行シーンで尺を稼いだ」と述べているが、足で稼ぐ刑事としての我妻の姿が描写するとともに、本作に独特の緊張感をプラス。さらに、従来の刑事ドラマでは省略する歩行シーンを多用することで、独自のリアリズムを達成している。
なお、歩行シーンといえば、本作を語る上でたびたび引き合いに出されるカットがある。それは、太鼓橋を渡った我妻が警察署に入る様子を、ガードレール越しに横から捉えたカットだ。
このカットでは、我妻の首から上が不自然に切り取られ、頭の胴体のみが被写体として映っており、アンバランスで即物的な印象を強く感じさせるカットに仕上がっている。
しかし、カメラマンの佐々木原保志は、「こんなカットを撮ったら同業者から笑われる」と北野に反発。佐々木原との間に溝が生まれてしまった。
こういった経緯から、本作以降、北野組のメインカメラマンは佐々木原から柳島克己に交代。キタノブルーを基調とした格調高い映像が生まれることになる。