ボルヘスからの影響も?
ノーランの文学的想像力〜演出の魅力
もしも他人の夢に入り込むことができたら―。子供の頃に誰もが一度は考えたことがあるであろうそんな荒唐無稽な妄想。それを壮大な世界観で形にしたのが、この『インセプション』である。
監督は名匠クリストファー・ノーラン。キャストにはレオナルド・ディカプリオや渡辺謙ら国際色豊かなキャストが名を連ねる。なお、本作の制作には 1億6000万ドルもの巨額が投じられた。
『インターステラー』や『メメント』など、実験的な「パズル映画」を制作してきたノーラン。そんな彼が構想20年を費やしたと語る本作は、一度見ただけでは理解が難しい実に複雑怪奇な作品に仕上がっている。
なお、ノーランが本作の「原案」として挙げているのがラテンアメリカの作家ホルへ・ルイス・ボルヘスによる幻想小説集『伝奇集』である。とりわけ本書に所収された「円環の廃墟」は、夢の中で「世界」と「息子」を実体化した男が、最後に自分も幻の中の人物にすぎないと悟る話であり、本作の設定と酷似している。
オリジナリティあふれる作品でハリウッドに新風を巻き起こしてきたノーラン。その作家性は、彼が培ってきた文学的想像力に支えられているのである。