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“闇の不在”が醸し出す恐怖~演出の魅力~

監督のアリ・アスター
監督のアリアスターGetty images

本作は、『ヘレディタリー/継承』で鮮烈なデビューを飾った新人・アリ・アスター監督による「サイコロジカルホラー」。主演はフローレンス・ピューで、全米公開時には、週末興行収入4位という華々しいスタートを切った。

本作最大の特徴。それは「ミッドサマー(夏至)」というタイトルが示す通り「明るいホラー」であることだろう。例えば、惨劇の舞台となるホルガ村には白夜の影響で夜が来ない。また、村人たちは真っ白な衣装に身を包み、村は花々で溢れている。この村には、身を隠せる「闇」がどこにも存在しないのである。

信仰に篤い村民にとって、この光は正義の光である。しかしその光は、一旦人間に牙を向くと内側まで鋭く入り込み、全てを白日のもとに晒し出す。そういったどこまでも暴力的な光が画面全体に横溢している。

また、随所に散りばめられた伏線も印象的である。例えば前半、ダニーの部屋に飾られているクマと少女がキスをする絵は、スウェーデン出身の画家ヨン・パウエルによる作品で、ダニーが北欧に向かうことと、のちに起こる惨劇を暗示している。

他にも、作中に登場する「愚か者の皮剥ぎ」という遊びがマークの末路を暗示するなど、さまざまなイメージが埋め込まれている。これらの寓意はまるで「タロット占い」のように、主人公たちの逃れられない運命を示唆するのである。

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