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共同体の「恐ろしさ」と「救済」というコインの表裏を描いたシナリオの魅力

脚本も手掛けたアリ・アスター監督
脚本も手掛けたアリアスター監督getty images

本作は、カルト信仰の恐ろしさを描いたホラー映画であると同時に、「家族」と「愛」の物語でもある。

主人公・ダニーは、精神を病んでおり、抗不安薬をなかなか手放せない。クリスチャンとの交際も倦怠期に陥っており、彼氏のクリスチャンは、いつ別れ話を切り出すか迷っている。

そんな折、彼女は、妹の無理心中で家族を失い、絶望の淵に立たされてしまう。

そんな彼女が、ホルガ村のダンスコンテストで優勝し、村の女王になる。家族を失い、愛に飢えた彼女の心の空白を、ホルガ村の人々を「擬似家族」とすることで埋めたのである。

印象的なのは、ダンス公演から女王になるまでの一連のシークエンスである。戴冠から写真撮影、そして神輿にのせられて担ぎ上げられるまでが、流れるように展開していく。不安定だった彼女の身体を村の人々が支え、彼女は村の人々に身を委ねるようになる。

極め付けは「性の儀式」だろう。クリスチャンはマヤに誘惑され、彼女とセックスする。その様子を垣間見たダニーは、ショックのあまり嘔吐してしまう。村の人々は、ダニーと号泣して彼女の感情に共鳴することで、連帯を一層強めるのである。

ホルガ村で行われている様々な儀式は、一見すると非近代的で野蛮なものに思える。しかし、家族を失ったダニーにとっては、ホルガ村の外部の方が絶望に満ちていた。

そうした意味で、本作は精神的な共同体の「恐ろしさ」と「救済」というコインの表裏を描いた作品なのである。

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