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ゆったりとしたカメラワークがもたらすシュールな笑い

監督のアリ・アスター(左)と撮影監督のパヴェウ・ポゴジェルスキ
監督のアリアスター左と撮影監督のパヴェウポゴジェルスキgetty images

本作には、観客の不安を掻き立てるような絶妙に気持ち悪いカメラワークが随所に挟まれている。

例えば、ダニーたち一行がホルガ村に到着するシーン。山道を行くダニーたちの車を追尾しているカメラが急に上下に180°回転し、天地が逆になる。常識が通用しない「異界」に到着したことを示す、この上ない映像表現である。

また、随所に散りばめられたダニーの主観的な世界観が反映された映像も印象的である。

例えばホルガ村に到着する直前、ダニーたちが草原で麻薬を吸引するシーン。「トリップ」した瞬間、ダニーの手を貫いて草が生え、森の木々が脈打つように揺動しはじめる。

こういった不安定なカメラワークが頂点に達するのは、ホルガ村の女王の座を争うダンスコンテストのシーンだろう。村の少女たちとくるくると一心不乱に踊り狂うダニーを捉えたカメラの動きは、観客のめまいを誘う、生理的に「来る」映像である。

しかし、ダニーがホルガ村の女王に即位し、生きる場所を見つけてからは状況が一点、安定したカメラワークが続く。印象的なのは、ダニーが立ったまま神輿で担ぎ上げられるシーン。立ったまま台座に乗る彼女はおぼつかない足取りだが、村民が神輿の土台をしっかりと支えることで安定する。ダニーがホルガ村に根を下ろすことを示した象徴的なカットである。

また、このゆったりとしたカメラワークゆえか、残酷なシーンでもところどころユーモアが感じられるのも本作の特徴である。例えばラスト、クリスチャンが処刑されるシーンでは、中身をくり抜かれたクマの着ぐるみを着せられるが、つぶらな瞳でたたずむ彼は、なんとも言えずシュールな笑いを醸し出している。「怖さと笑いは紙一重」痛感させられるシークエンスである。

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